あたし達が始まったのは必然かと問われればきっとそうだとあたしは答える。
偶然ではなかったのか?と問われればやはりきっとそうだとあたしは答える。
いつかこうなる気はしていたしこうなりたいとも望んでいた。
認めるのは悔しいけどあたしは大絶賛クソッタレな恋愛中だ。
欲しいものはもう手に入った。
およそ一年ほど前。なんの変哲もない雨の日にそのチャンスは突然舞い込んできた。
藤乃がどう思おうかなんて関係ない。
大切な人の為なら何をしてもいいと思ってる、それは誰でもないかつての藤乃の言葉だ。
この話を菊川から聞いたのは私がまだ高校生の頃だった。
その言葉を事も無げに吐けるのであればそれなりの覚悟があるのだろう。
ならばあたしだって遠慮はしない。
あてもなく飛び出したホテルの一室を見やる。
きっとそこには情けない顔をした、全てを捨てようとしている捨て犬が天井を仰いでいることだろう。
知ったかぶるつもりなんてない。
ただわかるだけ。
藤乃から誕生日にとアレを受け取ったとき、あたしは腹を抱えて笑いそうになった。
どこまでおめでたいの?あんたの頭の中。
そうやって訊きたくてたまらなかった。
だけど包みを開いてそんな気分はどこかに行ってしまった。
さっきはなつきにあんなことを言ったけど、あたしだってあんな派手なスマホカバー、ワケありだと思う。
だけどなつきが妙に狼狽えてたから。
その心理の奥の奥を考えると藤乃への愛情が垣間見えた気がしたから。
だから苛ついて話を切り上げて帰ってきたのだ。
どんな顔をして帰ったらいい?だって?バッカじゃない。そんなことあたしに聞くなっつーの。
嬉しそうな顔をしてあれをなつきに見せたのは事実。
だってそういう顔をわざわざ作ったんだから。
あたしがあのヘタレにマジだなんて感付かれたらたまったもんじゃない。
だから小手先でも”藤乃からもらったものに喜んでるあたし”を演じる必要があった。というより反射的にそう感じた。
何らかの意図があって寄越したもので、それが藤乃なりの牽制だったらサイコーだわ、なんて考えがその演技を後押しした感はどうしても否めないけど。
バッグから音楽プレイヤーを取り出して巻きつけられていたイヤホンをくるくると解いた。
それを装着して再生ボタンを押す。プレイリストの気まぐれな選曲に聴覚を委ねて思考を揺蕩わせる。
気だるげなアコースティックギターのメロディを、シャッターを切るような音が等分にしていく独特のイントロ。
あたしは今の気分にピッタリなその選曲に口元を歪めた。
-あの子が羨ましい
なんて気ままなエゴイスト
奪っチまうのさ”輝き”
僕は三流の盗賊
-あの子が忌々しい
まるで空想の産物
まばたきしてる間に
体に回る猛毒
そう、どうせあたしは藤乃には一生勝てない。
あたしが何をしようと何を言おうとどれだけ努力しようときっと届かない。
万に一つ、あたしとなつきの関係が藤乃にバレていようときっと何も変わらない。
海より深くてマグマよりも熱いであろうその愛情でなつきの全てを許してしまうんだ。
これだって知ったかぶりなんかじゃない。
わかるんだもの。
-なんとなく最低の天気さ
なんとなく最高の気分さ
今日はもう静かにオヤスミ
あぁそうね。
本当はあの部屋を出た時からどうしたいかなんて決まってた。
「適当に借りてきたCDだったけど悪くないかもね」
アンニュイな空は何も映さない。
過去も未来も今だって、何も。
こんな日は帰って寝るに限る。
あたしは気持ちを代弁してくれた曲に少し好感を抱きながら帰路に着いた。