食後の一服は今では習慣となってしまっていた。
前はベランダで吸っていたが、なかなか戻らないと静留が嫌がるので最近は専ら部屋で吸っている。
壁紙が黄色くなるぞと言って、うちが寂しくなるよりマシどすと言い返されたこともあったっけな。
とまぁ、こんな話は今はどうでもいい。
「………。」
私の名前は玖我なつき。現在大学二年、同棲中の彼女持ち。
一年程前に魔がさして後輩に手を出してそれからずるずると関係を持ち続け、本日遂にその証拠品を持ち帰り大ビンチ。
こうして振り返るとただのクズでバカで救いようのない奴だな、私は。
わかってはいたがその事実が余計に気分が暗くなる。私にそんな権利、あるはずもないのに。
「なつき、さっきから何探してはるん?」
「え?」
「探し物やろ?手伝いましょか?」
「い、いい。別に探し物なんてしてないから。気にするな」
テーブルから立ち上がろうとしていた静留を慌てて座らせて目配せをした。
アレをどこに入れたか定かではないが一番可能性が高いのはあの鞄の中だろう。
静留は勝手に私のプライバシーを探るような真似はしない。
……絶対とは言い切れない、基本的に。
それは私を守るという名目で静留は暴走しかねないからだ。
逆に言うと怪しまれなければ大丈夫、なはず。
「風呂、入ってくる。」
「うちも一緒に入ろうかしら。」
「私が帰ってきた時に風呂場にいた人間が何を言ってるんだ。テレビでも観てろ。」
「いけず。」
いつも通りの夕食、いつも通りの会話、いつも通りの表情。
その全てに私は警戒をした。おぞましいとさえ思った。
常に見えない切っ先を突きつけられているような、そんな冷たい殺気がまとわりついて離れない。
−だからさぁ、アンタどんだけヘタレなの?
最近は会う度にヘタレと罵られているような気がする。
被虐趣味はない、多分。
ただこんな風に思わず奈緒の声が聞こえてきてしまう程度には追いつめられていた。
わかってる、私を追いつめているのは静留ではなくて自分への罪の意識だ。
脱衣所で一人きりになると先ほどまでのやり取りでヘマをしなかったかを真っ先に考えた。
最近、少しでも一人になるとこうやってそれまでの会話や行動を反芻する癖がついてしまっていた。
臆病で狡くて矮小で浅ましい。
きっと私は身も心も全て、何もかもが静留には相応しくないと思う。
着衣を無造作に籠の中に放り込んでため息をつく。
辛いのならやめてしまえばいいのに。
私はそれを選択しようとしない。
「どこまでも愚かだな。」
浴槽の中で膝を抱えて独り言ちた。
惨めったらしくてサイコーの気分だ。