雨さえ降ってくれれば少しでもマシになるだろうか。
いや、湿度が上がって悪化するだけか。
いずれにせよ自分にはどうしようもないことだ。
陽が落ちるのを黙って待つしか無い。
汗で体に張り付く服の不快感にうんざりしながら、私は大学の喫煙スペースで舞衣を待っていた。
カンカンに照った太陽を睨んで、はしたなく銜え煙草なんてしてみても一向に気は晴れない。
静留には事前に今日は帰りが遅くなると伝えているので問題ないだろう。
今まで色恋に身も心もどっぷりと浸かっていたせいか、
下心無しに付き合える相手との時間が待ち遠しかった。
「はは、私らしくないな」
言いながら煙草を水の入った灰皿にそのまま落とすとじゅっという音と共に火が消えた。
なんとなく花火を連想して、そのまま今年はどうしようかなんて考える。
去年は静留と過ごした。途中、舞衣達と合流したりもしたが、結局は二人で帰った。
確か、その帰り道に来年はこの辺りではなく少し遠くの花火を観に行こうなんて話をしたと思う。
でも、何故だろう。今その約束を覚えているのは私だけのような気がした。
「お待たせ!」
「あぁ、待った。おかげで汗だくだ」
「建物の中で待ってればよかったでしょ」
「それだと煙草が吸えないだろ」
「あーらら。いまや立派な喫煙者ね、アンタも」
舞衣は心から哀れむようにそう言う。
無意識の内にまた煙草を取り出していたようで舞衣に静止されてしまった。
「ちょい待ち、一服はあとあと。喫煙席で予約してるから先にお店に移動しちゃおうよ」
「そうか、悪いな」
「いいえー。今日のところね、詩帆ちゃんに教えてもらったお店だからハズレはないと思うわよ」
「ほう、それは楽しみだ」
煙草をポケットにしまい、鞄を持ち直しながらそう言った。
舞衣は私を待っているようで、恨めしそうに空を見上げている。
「にしても今日、ホント暑いわね」
「あぁ、うんざりだ」
「雨が降るなんて予報では言ってたけど、大外れね」
「そうなのか?」
何の気なしにそう返事をすると、舞衣が空を見上げていた視線のまま向けた。
その眼差しの意味を図りかねて少し居心地が悪いまま私は歩き出した。
「あんた、最近変よ」
「は?」
「前からズボラなところはあったけど、なんか最近は一段と変」
「変変言うな」
「だって変なんだもん」
いじけた子供のような口調でそう言う舞衣に私は困惑する。
変と言われても心当たりがないのだ、仕方がないだろう。
「なんて言うんだろう、色々なことに無頓着になっちゃったっていうか」
「昔からだろう、それは」
「そう言われると、まぁ、そうなんだけど」
「あまり気にするな」
「…あんた、私に何か隠してる事ない?」
「右か?左か?」
突き当りの道で立ち止まると、舞衣はやれやれと言うようにため息をついた。
隠し事をしているか、なんて愚問に答える気はない。
あまり問いたださないで欲しい。
愚かな私は罪悪感に負けて口を開いてしまうだろうから。
こんな人間とつるんでいるだなんて知ったらきっと舞衣は悲しむ。
あぁ、そうか。
私は静留だけではなくて舞衣をも騙しているんだな。
これから入る店の料理の味が分かるか、自信がなくなってきた。
「ん?どうしたのよ」
「いや、なんでもない」
行き先がわからないと言うのに私は先に道を歩いた。
すぐに後ろから行き過ぎ!と声がかかり、振り返る。
「あんた、ホント大丈夫?」
「ははは……」
大丈夫?か。
さぁ、どうなんだろうな。