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舞-HiMEの静なつ奈緒のSSを書こうと思っています。 キャラ崩壊酷いと思うので、大丈夫な方だけどうぞ。

11.

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11.

静なつ奈緒。
奈緒視点です。





暑い。この猛暑はなんなの。
うだるような暑さ、という表現を小説の中でよく見かけるが今日はまさにそんな日だ。
元々うだるというのは茹だるから来てるとかなんとか。
アスファルトから発せられる湯気のような熱気が遠くの景色を滲ませている。
そしてあたしは大学近くのカフェテリア、いつもの特等席で肘をついていた。
座っているカウンターの目の前はすぐにガラス張りになっていて外の様子がよく見える。
もう外に出たくない。
あとは帰るだけだが、その為だけに太陽が沈むまでここで待とうかなんて
普段なら有り得ない発想が頭の中でちらついている。
幸い、先日買った文庫本がまっさらなまま鞄に2冊入っている。
夜までの時間潰しは容易いだろう。

「にしても……」

あたしはスマホに一瞥くれると比較的素直に自分の今の状況を認めた。
暑さもそうだが、あたしはなんとなく家に帰りたくなかったのだ。
それは最近ぱったりと連絡がこなくなった玖我が突然電話をしてくる気がしたから。
そろそろ鳴る、気がする。
そんな希望じみた推測を胸に派手なカバーの細かいディティールを眺めた。
趣味は悪いけどやっぱり手が込んでいる。
玖我に見せつける為だけにつけていた、それ。外してしまおうか。
何度もそれはマズいという考えに至っているというのに、性懲りもなくこんな事を考える自分が滑稽で仕方がなかった。

本当は藤乃から何かをもらっても嬉しい訳がなかった。
その”何か”が例え、玖我であったとしてもだ。
あいつからの施しは受けたくないし、玖我だったらあいつから貰わなくても自分でなんとかする。
できるとは思えないけど。
それにしてもあいつから譲り受けるなんて恥もプライドも無い真似、死んでもしたくない。

とまぁ、本当なら藤乃の手のついたものなんてクソ食らえだ。
誕生日プレゼントでもらったものを無下にするのは不自然だろう。
ただそれだけの理由でこうして日常生活でかなりウェイトの占める通信機器に取付けたりしている。

「………」

これをそのままにしておいたら、いつか玖我から連絡があって、
藤乃がくれたこのケースごとスマホが振動するのか。
そう考えるとなかなかに気色悪い。

正直、藤乃には同情する。
あたしだってこんなことがなければここまで藤乃を敵視していなかった。
もしかして違う出会い方をしていたらこんなことにはなっていなかったのかもしれない。
というよりはあたしか藤乃のどちらかが玖我と関わらなければと言った方が正しいか。

あんな出会い方をして、関わり方をして、その延長線上にこんな関係が待っているだなんて。
HiMEだったことも考慮するとそれは本当に天文学的な確率になるだろう。
むしろ運命だったのだろうか。
惚れた相手が女でさらにそいつには女の恋人が居て状況は芳しくないだなんて運命、ふざけてる。
誰に言うでもなくあたしは自嘲気味に小さく笑った。

「なんや楽しいことでもあらはったん?」
「……は」

聞こえてきた声に、反射的にあたしは身を固くした。
なんであんたがここにいんのよとか、話し掛けてくるんじゃないわよとか
色々と言いたいことはあったし、普段のあたしの言動を考慮するとそれはきっと言うべきでもあった。
だけどあたしは何も言えなかった。
現在進行形で頭に思い浮かべていた人物が目の前に現れるだなんて全くの想定外だったから。

「隣、よろしい?」
「好きにすれば」

あたしもうここ出るから、と言いながら開いたばかりの文庫本を閉じながら言う。
しかしこいつは一部始終を観察していたらしく、まだ1ページも読んどらんやないのなんて言いながら
椅子に押し付けるようにあたしの肩に体重をかけた。
先ほどまでは心地良いとすら感じていた筈の冷房の直風がやけにうざったく感じる。

「なんなのよ…」
「久々に二人きりなんやもん、そないな寂しいこと言わんといて?」
「そっちこそそんな気色悪い言い方すんなっつーの」

こいつはあたしと玖我の関係に勘付いているんだろうか。
玖我の話では問題無いとのことだったけど、あたしにはどうにもあいつの話は信用できなかった。
あいつが嘘をついているとは思っていない。そんなメリットもないだろうし。
ただ、こういうことに関してはあいつよりも藤乃の方が1枚も2枚も上手だ。

「それ、気に入ってくれましたん?」
「う、うるさいわね。あんまりしつこいと外すわよ」
「いけずやなぁ。付けとっておくれやす」
「ふん」

この際だと割り切ろう。
あたしは警戒しながら、それとなく藤乃を探ることにした。

「っていうか、あんたこんなとこで油売ってる暇あんの?」
「えぇありますえ。うち暇やもの」
「……あっそ」

もしかして本当にあたしと話したかっただけだろうか。
それにしても玖我にすら教えていないこの場所で遭遇するなんて運がなさ過ぎる。

「奈緒はんも暇やろ?これから」
「嫌」
「あら」

誘われる前に断った。
当たり前だ、どんな神経してたらこんな間柄の奴と遊びに行けるのよ。

「分かりました。ほな、とりあえずはここで涼んで、ディナーやね」
「そうそう。……って、何言ってんのよアンタ」
「ディナー言いました」
「聞こえてるわ」

どうやらこの女は意地でもあたしを拉致るつもりらしい。
もしかして玖我の件で何か言いたいことがあるのかもしれない。
だけどこいつと夜までいるなんてご免だ。

「言いたいことがあるなら今言ってくんない?」
「言いたいこと、どすか」
「そうよ。回りくどいのはダルいから」
「わかりました」

藤乃は目を伏せた。
どんな角度から見ても綺麗だなんて反則だ。
あたしのすぐ隣に座っている筈なのに纏う空気がまるで違う。
まるで別のレイヤー上に存在しているかのようだ。
心の中で玖我と釣り合う唯一の女というある種レッテルのようなものを貼り直してあたしは身構えた。

「あんな、うち……」
「うん」
「奈緒はんとデートしたいんよ」
「…………………………は?」

あたしには意味がわからなかった。
いや、この場に玖我がいたとしても、あいつだって首をひねっていたはずだ。
あたしは藤乃にまるで病人でも見るかのような、若干気の毒そうな視線を送っていた。

「だってなつき最近全然構ってくれへんのよ。今日も舞衣はんと約束がある言うて」
「だからってあたしを使うなっての」
「ええやん。暇なんやろ?代金は全部うちが持つさかい、付き合ったって」
「……」

奢りだと言われてあたしは閉口した。
もちろん行きたくないが、玖我とのことへの後ろめたさがなければどうだろう。
あたしは乗る気がする。
つまり、ここまで言われて断るのも普段のあたしとして不自然な気がするのだ。

「……」
「な?」
「はぁ……わかったわよ」

結局こいつの方が上手なのだ。誰よりも。
交渉成立やな、と嬉しそうに指を絡めてくる藤乃の手を叩き落としながらあたしはため息をついた。




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