ギャグです。
深く考えてはいけません。
ノリで読んでください。
静なつなのに奈緒視点っていう、まぁわりとありがちなアレです。
機嫌の悪いときだけ敬語になるなつきと巻き込まれる奈緒が書きたかっただけです。
「なぁまだ怒ってはるの」
「いいえそんなことありませんが」
「怒ってはるやろ」
「はい」
「はいやないわ」
なんて漫才みたいなやりとり。
あたしはベッドに座って脚を組んで見つめていた。
ここは保健室。主である鷺沢は会議だか何だか口実を付けてどこかに行った。
話し合いの場所を提供してくれるなんてなんとも泣ける話じゃない。
あたしは一刻も早くここを去りたいけど。
藤乃に引っ張られてきただけだし。
「もう、ホンマなつきは分からん。気難しい難儀な子やわ」
「私が?そういう一面があるのは否定しませんが、今回悪いのはそちらです」
帰ろうと思ったら藤乃があたしの教室にやってきてこう宣ったのだ。
なつきがまともに口きいてくれへん、と。
何を言っても不機嫌そうに敬語で返してくるとかなんとか。
実際見るまでは信じられなかった。
玖我がそんな風に何かを抗議するのが意外だと思ったとかそういう話じゃない。
単純にこいつ敬語使えたんだ。っていう、それだけ。
「なしてうちがそないに責められなあかんの」
「お言葉ですが、本当に心当たりがないのでしたら脳を診てもらった方が良いのでは」
「記憶障害扱いは辛いからやめよし」
「もしかしたら心の方かも」
「精神も脳も健康どす!!」
どうやら玖我は相当頭にキてるみたいで、とにかく容赦ない。
あたしは自分がここにいる意味を考える。
適当に解決させて家で横になりたい。
「それでは藤乃さん。昨日、どこで何をしていたか、教えてもらえますか?」
「?えーと……昨日は生徒会室を出て帰ろ思たらかぁいらしいおなごはんに声かけられて空き教室に連れていかれて、いきなりハグされて一度でええから抱いてくれ言わはるから丁重にお断りしたんやけど、随分しつこく食い下がらはるからしゃーないほっぺにキスしてみたらなんとか解放されて…それでやっとの思いで買い物済ませて帰ってきたんどす。心当たりは特にあらしません」
「心当たれよ」
ついツッコんでしまった。
それまで一言も発していなかったあたしの声を聞いて二人がちらりとあたしを見る。
そして藤乃は少し首を傾げながら言った。
「……どこら辺に?」
「全部。正確に言うなら”やっとの思いで買い物を済ませて〜”ってのよりも前、全部。でしょ?玖我」
「あぁ」
玖我は腕を組んで頷いた。
うん、これは藤乃が悪いわ。
「で、でも、ああでもせんと離してくれへんかったさかい、乱暴に振りほどいても」
「ばっかじゃないの!玖我だってそんなこと理屈じゃわかってんのよ!」
「奈緒の言う通りだ!なんで女の子の告白をそんな無下にするんだ!!可哀想だろ!」
「 っ て そ っ ち か よ ! 」
おかしいでしょ、ここは普通「そうするしかないって分かってても他の人にキスするなんて許せない。というかそもそもなんで空き教室に連れ込まれてんの?しかもその上ハグとかなんなの?もっと警戒して。っていうか何?ほっぺにキスで済んだからよかったもののそれでも相手が食い下がったらどうしてたの?違うところにキスしてた?触ってた?」みたいなそういうことを言う場面でしょ。
「さっき奈緒も言ったけど、理屈じゃないんだ!」
「あたしはそんなつもりで言ってない」
「なつき……!」
「おい待てアンタら、ちょっと待ていいから待て」
オーケイ、わかった。わかったわ。
ちょっと頭を冷やしましょう?
あんたもあんたもそしてあたしもちょっとばかし冷静じゃないわ。
まずは玖我の言い分を訊こうとあたしは話を振った。
なんとも言えない微妙な表情の藤乃と目が合う。
その表情の意味に少しだけ考えを巡らせたけど、どうせわかりっこないだろうからすぐにやめた。
「静留、あのな。お前は私に甘過ぎるんだ」
「それのなにがあかんの」
「藤乃もアカンけど玖我の頭の中も相当アカンことになってると思う」
「私はお前を信じている。さすがに言われるがまま抱いてやれとは言わないが、もう少し優しく接してやれ」
「無視かよ」
考え方は人それぞれっていうし、その通りだと思うけど
それにしても本当にこいつらの精神構造がわからない。
っていうかホント、あたしここにいる意味ある?ないよね?
「そないなこと言われても……うち、なつきにしか優しくできひんのよ」
「今ジュリアのこと思い出したわ」
なつきにしか優しくできない、という言葉の意味をあたしは身を以て知っている。
あたしの可愛いジュリアが切り刻まれデカい蛇に飲み込まれるあの光景がフラッシュバックする。
さようならジュリア。ありがとうジュリア。
「それに、露骨に嫌な顔したりしてへんよ。うちの外面がええのは知ってはるやろ」
「確かにそれはあるが、私はいつまで経ってもお前が本音で語りかけてくれないから。だからムキになって縋った可能性もあると思ってる」
「有り得るわね。藤乃のその仮面って、一回気付いちゃえば結構見分けやすいし?そら自分が告白した人が適当に躱そうとしてたら悲しいし、意地でも一瞬でも自分の方を向かせたくなるわよね」
藤乃の言い分もわからないでもない。
確かにこいつの本質を見ようとしない生徒はみんなそのまやかしに引っかかってるわよ。
でもそれじゃ甘いでしょ。
告白してしまう程にあんたのことを想っている子にまで通用するとは思えない。
「随分詳しいんやな」
「詳しいとかじゃないわよ、一般論でしょ」
「なんだ、奈緒。そういう経験あるのか」
「だからねぇよ。話聞けよ」
こいつらにどんな薬を飲ませたら人の話を聞くようになるんだろう。
いや、きっと話を聞いた上でやってる。
もう打つ手なしってことじゃん、ソレ。
「まさか、なつきを…!」
「はぁ!?ちょっといい加減にしてよ、今はあたしの話じゃなくて藤乃の」
「わ、私か?!え、えっと、どうしよう」
「どうもしなくていいから黙って」
「一回だけどすえ」
「なに許可出してんのよ!」
「……」
「こっちを見ながら顔を赤らめるな!」
いい加減にしろ。
最近こいつらのこんなアホなやりとりに巻き込まれることが多くなってきた。
だけど、あたしが玖我に……とかその手の冗談は本当にやめて。
またジュリアのことを思い出した。つらい。
とにかく、話を誘導してやるだけじゃ駄目だということがこの流れではっきりとわかった。
あたしがまとめてやらないと駄目っていう、そういうコトなんでしょ?
これで二人とも年上ってんだから世話が焼けるわよね。
「だからさ…もう、あんたらホント、話終わらせる気ないでしょ。いい?玖我はいちいち妬いたりなんてしないし、藤乃のことを疑ったりもしないから。勇気を出して告白してきた子くらいまともに相手にしてやれって言ってるの」
思い描いていた方向とは別方面での怒りだったが、玖我の気持ちもわからないでもない。
でもそれは藤乃の気持ちも同様だ。玖我以外がどうでもいいとかそういうんじゃなくて、
単純にすごいモテそうだから。そんな風にいちいち相手してたら疲れるんだろうなって。
もちろんあたしは中立の立場を貫くつもり。
とかそんなことを考えていると目の前の二人はあたしを見ながらぼそぼそと喋り出した。
何かに似てると思ったら、あれだ。ウワサ話をするおばちゃんだ。
「奈緒を出して……?どこから………?」
「うちもずっと考えとりました……そもそもなして急に結城はんの話になるのかが」
前々から薄々思ってたけど、いま確信した。
こいつらバカだ。
「結城じゃなくて勇気だから」
ホントなんなの。
あたしのツッコミも空しく、玖我と藤乃のアホな会話は続いていく。
「なぁ、どこから出すと思う?」
「肘、やろか…?」
「話を聞け!ワケ分かんないところからあたしを出そうとすんな!」
「しゅっ!って?」
「なん、いまの効果音?かっこええな、うちも出したろ。しゅっ」
「出すな!!しまえ!!!」
肘からあたしを出すという訳のわからない話し合いに激怒する。
っていうかしない方がおかしいでしょ。
せっかくあたしが一肌脱いだっていうのにこれだもん。
真面目に話し合ってるのあたしだけなんだもん。
こっちは部外者なんだけど。
そんなことを考えていると藤乃が仕切り直した。
「……言い分はわかりました。ただなしてなつきはうちが相手にせんかったこと知ってはるの?」
「簡単な話だ。クラスメートだったんだ……泣きながら教室に入ってきてな。教室で待機してた友達に事情を話してた」
何あんたら。やりゃできるじゃない、真面目な話。
……じゃあ初めからやれよ。
「なるほどね。で、あんたはたまたまそれを聞いたと」
「全く、見損なったぞ。携帯いじりながら告白聞き流すなんて」
「堪忍な」
「藤乃さぁぁぁんっ!!?」
気付いたら藤乃の名前を呼んでいた。
それもさん付けで。
いやでも仕方ないでしょ。
だって藤乃が有り得ないことしてるんだもん。
「なん?」
「奈緒ってそんな大きな声出せたんだな」
「いやいやおかしいでしょ!さっき『私は外面いいから大丈夫』みたいなこと言ってたけど!ケータイいじりながら告白聞くとか興味なくて早く帰りたいの隠す気ないじゃん!」
「たまにはそないな日もあるんよ」
「んなっ…!」
「な?奈緒もそう思うだろ?だから私も静留に対して怒ってたんだ」
「気持ちはわかるけどあんたはもっと周りに迷惑かけない方法で感情表現して」
「うっ……それは、その、静留が奈緒を連れてくるなんて思わなかったというか、その……」
「毎度呼び出しておいてよく言うわよ。大体あんたは……いいや」
あたしは言いかけて言葉を飲み込んだ。
前は身につけていなかった会話の仕方。ホントごく最近学んだ。
こいつらの会話がアレ過ぎて処理が追いつかなくなったり、本当に面倒になったときに発動させる。
「え?」
「………もういい、とりあえず、いい」
「?」
「あんたら、仲直りした?」
「仲直りというか…まぁ、静留が分かってくれたなら、それでいい」
「もちろん、承知しましたえ。もう少しなつき以外のものも大切にできるよう心がけます」
「あっそ。んじゃ一応解決ね。それじゃあたし帰るわ……あとはあんたらで好きにやって」
どんなに不条理なことだって、納得いかない時だって、黙っていた方がいいときもある。
これが大人になるってことなんだなぁってしみじみと思う。
中三にこんな悟り開かせてるんじゃないわよ、上級生。
伸びをして窓の外を見ると見事な夕焼け。
あぁもうこんな時間じゃない。
想像以上に経過していた時間に対して小さな憤りを感じていると
玖我のとんでもない発言が耳に入る。
「そうだ。私さっき生理きたぞ」
「おい」
「嘘やん!楽しみにしとったのに!」
「こら」
「仕方がないだろう、きてしまったものは」
「聞いてんの」
「いやもう、こうなったらいっそのことお風呂で……」
「そういう会話はあたしが居なくなってからにしろ!!!!」
こいつらのことをお姉様だなんだ慕ってる連中に今の会話を録音して聞かせてやりたい。
……駄目だ、玖我はまだしも「なつきの生理のタイミングがうち以外の誰かに知られるなんて!」と
また意味不明なポイントでプッツンする藤乃がコンマ2秒で脳内再生された。
よって却下。
全てがダルくなってあたしは鞄を持って逃げるようにその場を去った。
というか逃げた。あの不条理な空間から。
「ったく。痴話喧嘩なら二人でしろってーの」
さっきの玖我の言葉を思い出すと、なんとも玖我らしい真っ直ぐな意見だと思う。
ってか真っ直ぐ過ぎ。告白してきた相手に真摯に対応しろだなんてよく言えるわ。
確かにケータイをいじるのはよくないと思うけどさ、きっとそれはしつこく食い下がられてからの行動だと思う。
藤乃が初っ端からそんなことするとはやっぱりあたしも思えないし。
しつこいからわざと態度で示さざるを得なかった、辺りが真相だろう恐らく。
で、藤乃は明日からその態度を改めるそうだけど、それは果たして問題ないのだろうか。
だってそうでしょ。今度はそれで玖我が妬いたり……いや、それはないか。
だったらわざわざあんなことを言ったりしないはず。
と考えたのが二週間前のことだった。
そう二週間。たった二週間。
なのにこの(色んな意味で)バカップルはあたしを挟んでまた喧嘩をしていた。
今回あたしを召喚したのは玖我の方だ。
「奈緒……!静留が浮気するんだ!」
「優しくしてあげろ言うから優しくしとるだけどすえ?無下にしたらアカン言うたのはあんたやろ」
「で、でも……こんなに頻繁だと……」
「 こ の 間 言 っ た じ ゃ ん 」
開いた口が塞がらない。
自分でちゃんと相手にしろと言って後にそれを浮気呼ばわりとはまぁ、
こいつの頭の中には脳みその代わりにそれっぽく成形したマヨネーズでも入っているんだろうか。
「ちゃんと気持ちの踏ん切りをつけるための儀式に付き合うてるだけやさかい、そないに目くじら立てんでも」
「いくらその為とは言え」
「入れてへんのやからセーフやろ」
「あぁぁぁ!!聞きたくない聞きたくない!!藤乃!あんた生々しいこと言うの禁止!」
あたしは耳を塞いで叫んだ。
入れるって何を。何を。
深く考えない方がいい、絶対その方がいい。
「うちかてなつきのこともっと構ってあげたいんよ?でもなぁ」
「玖我も馬鹿だと思うけど、あんたもちょっとやりすぎ!」
「やりすぎて……うち、そないな相手はなつきしかおらんy」
「そういう意味で『やりすぎ』って言ったんじゃないわよ!あと生々しいこと言うの禁止っつったろ!このぶぶ漬け女!」
「ふふ、堪忍な?そないに珠洲城はんみたいなこと言わんといて?」
「はぁ……なんで一度は危惧したこのシチュエーションを防げなかったワケ?え?なんで?」
自問自答を繰り返す。
そうだ、バカ正直な玖我のことだ。
きっと告白を適当に流していることを正させたかっただけ、
藤乃が真摯に向き合おうとした結果どうなるかなんて考えてなかったんだ。
大した自信だな、と他の奴が同じことをしたら思うだろう。
でも玖我は自分に自信があったわけじゃない。
知ってる。
バカなだけ。
「なつきが子供だからどす」
「うるさい!」
「ホント、なんで丁度いい感じにできないのよ?あんたら中庸って言葉知ってる?」
「あぁ、知ってるぞ。古代ギリシャでは、アリストテレスの「メソテース」ということばでそれを倫理学上の一つの徳目として尊重していて、仏教の中道と通じる面があるとも言われるが、仏教学者によれば違う概念で」
「知り過ぎぃ!」
「なつき、今のは意味を聞いたんやなくて嫌味のつもりやったんやと思いますえ」
あぁもう、なんであたしはこんな奴らに絡まれてるんだろう。
空を見るとまた夕焼け。
ここ数日は天気がいいな、なんて軽い現実逃避をしながら、
今日も帰りが遅くなるであろうことを察したあたしはがっくりと肩を落とした。