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舞-HiMEの静なつ奈緒のSSを書こうと思っています。 キャラ崩壊酷いと思うので、大丈夫な方だけどうぞ。

9.

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9.

バンドパロです。
次そろそろもう片方のパロも更新したいと思います。







「あんた、それどうしたのよ」

帰り道、聞き慣れた声が後ろからした。
誰かなんて振り向いて確認するまでもない。

「予定、間違ったんだ」

だから前を向いたままそう答えた。

「間違ったって…藤乃は?あいつもベース背負って登校したの?」
「私は今日、遅刻組だったんだ」
「組って何よ」

言いながら奈緒は私の隣に並んだ。
確かに、組ってなんだろうな。

「慌てて、ベースが立てかけてあることに気付かず家を出たんだ」
「へぇ?あんたにしちゃ進歩じゃない。前なら学校の為に慌てるなんてこと、なかったでしょ」
「よくわかったな」
「わかるっての。並のサボり癖じゃないでしょ、出席日数を注意されるなんて」
「うっ……その話はするな。というか何故知っている」
「なんで知ってるって思うのよ」
「……静留か」
「それ以外ないでしょ」

鼻で笑われてしまった。
しかし妥当だと自分に言い聞かせて反論することなく歩き続けた。

信号がタイミングよく青になった。
そういえばさっきからずっと信号に引っかかっていない気がする。
こんな日に真っ直ぐ帰ってしまうことを少しだけ惜しいと思う。そしてそれに気付いて自分で驚いた。
こんなくだらないことを意識するなんて、蝕の祭りの前じゃ有り得なかったから。

「あんた、帰るの?」
「さぁな」
「さぁなって何よ」
「迷ってる」

奈緒の視線の先に公園があることに気付いて私は進路を変えた。
奈緒が驚いたように一瞬立ち止まって、すぐについてくる。

「べ、別にあたしは」
「まぁたまにはいいだろ、こういうのも」
「……しょうがないから付き合ってやるわ」

砂場では子供達が楽しそうに遊んでいる。
それを眺めながら私達はベンチに腰掛けた。
ケースに入っているとはいえ、地面にそのままギターを置くことを躊躇っていると
奈緒は少し端につめてギターも座らせてやれと視線で促した。
こうして私は奈緒とデュランの間に座ることになった。
デュランというのは私のギターの名前だ。かわいいだろ。

「楽しそうだね、あの子達」
「あぁ。何を作っているのか、皆目検討がつかないが」
「や、山、じゃないの……?多分」
「山、か……そうだな、多分」

風の匂いが少し前までとは違った。
確実に秋の色をはらんでいる。
色づき始めた木々を見やりながら季節の移ろいを感じた。
きっとあっという間に冬がくる。

「にしても…あんたさ、珍しいじゃん」
「何がだ?」
「ギター。間違えて持ってくるなんて」
「そうだな。ぬかったよ。練習は明日だったな」
「間抜けねぇ。ま、目立つの嫌いっていうわりにまともな対策とらないあんたも悪いと思うけどね」

そう、私は意味なくギターを背負ったりしない。
愛着がないわけではないが、目立ちたくないし、バイクに乗りにくいし。
乗れなくもないんだが、如何せん静留がいい顔をしない。
今日歩いていたのは、ただでさえ遅刻しているというのにそのうえギターを背負ったままバイクに乗るだなんて、
さすがに静留の逆鱗に触れてしまいそうだと自重した結果だった。

「そんなに珍しいかな、これ」
「は?」
「みんな珍しそうに私のことを見るから。他にも楽器を背負っている子はいるというのに」
「……え、ちょっと待って。あんた何言ってるの?」
「は?」

奈緒は思い切り私を訝しんでいる。
心外だ。
そんな顔をされる覚えは無い。

「わかった、質問を変えるわ。なんでみんなにじろじろ見られると思う?」
「?いま言っただろ。物珍しいんだろ、楽器背負ってるのが」

奈緒は額に手を当てて盛大なため息をついている。
何か変なことを言ってしまったらしい。
大方見られているのが私の自意識過剰の錯覚だとか、そういうことを言いたいのだろう。
私だって最初はそう思ったが、舞衣にも静留にも、あの命にですら言われた。
その上で自分でも確信したことだ、勘違いだとは思わない。

「お前、何呆れてるんだ」
「あんたがちょっと、あまりにもアレなもんだからちょっとね……」
「お前、バカにしているだろう」
「まーそうかもね。正直信じらんないわ」
「なんか弾いて!!!!」
「「!?」」

私達の会話は闖入者によって遮られた。
子供が四人。さっきまでそこの砂場で遊んでいた子達だ。

「はいはい、いいわよぉー?このお姉ちゃんが今からギターの演奏してくれるからねー」
「!?!?」

勝手なことを抜かす奈緒を睨みつける。
誰がこんな人目につくところで演奏なんか。

「あらぁ?子供達のリクエスト、応えてあげないのぉ?」
「勝手なことを」
「えー!弾いてくんないのー!?」
「うっ……」
「うそつきー!」
「う、噓じゃない!それはこいつが勝手に」
「ばーか!」
「なんだと!」
「へんたい!」
「違うわ!!!!!」

駄目だ、四対一は勝てない。
ここは適当に何か一曲弾いて大人しくしてもらうのが得策か。
だってそうだろう、こんな住宅街で子供達に大きな声で騒がれたら面倒だ。

「それもこれも全部お前のせいだ」
「はぁ?何の話よ」
「それはもちろん」
「このおねーちゃんのせいでへんたいなのか!」
「違うと言ってるだろう!!黙れ!!」
「っていうかあたしのせいってどういうことよ!」

私を変態呼ばわりする子供とにらみ合いになる。
しばらく続けていると我に返った奈緒に大人げない、恥ずかしい、いいからとっととなんか弾け、と
耳打ちされて私は観念したように視線を逸らした。

「はぁ……わかった。仕方が無い。弾いてやる」
「おぉー!すっげー!」
「やった!」
「へんたいさんありがとう!」
「そうか、ギターを弾こうが弾くまいが私は変態なのか、そうかそうか………」
「ショック受けてないでさ、早く聴かせてやんなよ」
「と言ってもなぁ、何を弾いたらいい?」
「「ワンピースがいい!!!」」

「「ワンピース……??」」

私と奈緒は互いに顔を見合った。
きっと私も今の奈緒のような顔をしているに違いない。

「ワンピースって、あれでしょ?海賊の……麦わらの……」
「だよな……よし、わかった」
「マジで!すげー!」
「ははは、せめて演奏聴いてから言ってくれ。そういうことは」

困り果てた顔をしながらソフトケースからギターを取り出す。

「かっけー!」

ストラップを肩からかけてから、今度は小さめの収納ポケットを開けた。

「俺ギター初めて見たー!」

ここには予備のピックだのチューナー等の小物が入っている。

「これは何に使うの!?これは!?」

そこからチューナーと、まさかこんな使い方をするとは思わなかったamPlug(アンプラグ)を取り出してため息をついた。

「なぁ、本当にやるのか?」
「今更ブルってんじゃないわよ」
「だって、子供達の期待がすごい……」
「期待っていうか、まぁ、そうね、プレッシャーなのはわかるわ」

今しがた取り出したamPlugというのは小さなアンプのことだ。
通常、エレキギターは本体だけでは音は鳴らない。
いや、鳴るには鳴るが普段聴き慣れているあの電子的な音にはならない。
アンプという箱型のスピーカーを通して初めてあの音が出せる。
本来ならシールドというケーブルでアンプとギターを繋ぐのだが、
そんなもの普段から持ち歩ける訳が無い。
で、だ。
amPlugは手のひらサイズでそれらの役割を一手に担ってくれる機械なのだ。
余談だが、音楽プレイヤーと繋いで音源とセッションできるというありがたい機能もついていて、
こいつには普段から大変世話になっている。

「あんた、ワンピースの曲なんて弾けるの?」
「オープニングなら、少しだけ」
「へぇ、やるじゃん」

奈緒が愉快そうに笑っている。
amPlugをギターに差し込み、音の出具合を調整する。
音が出る度に子供達の歓声が上がった。

別に曲弾くまでもないんじゃ?と思わなくもなかったが黙った。
ここまでしておいて中断するなんて普通じゃない。
アレだ、盛り下げってやつだ。

テンポは……適当でいいか。
私はネックと弦の間に縫うように挟んであったピックを手に取り、軽快なイントロを奏でた。

ちらりと視線を向けると、ギターが意味のある音を連ねていることに子供達は感動しているようだった。
さっきからチューニングだの音の調整だのでまともなメロディを弾いていなかったからな。

しかし、このイントロを聴いても、知っている曲と合致する子はいないらしい。
なんとなく、表情がそう物語っている。
ギターの演奏をせがまれただけで歌つもりなんて全くなかったが、
何の曲かわからないなら仕方が無い。

「僕は今探し始めt」「選曲が古い!」
「いだっ!」

歌い出し直後、後頭部にチョップが飛んで来た。
地味に痛い。

「ったいな!何をするんだ!」
「選曲が古い」
「さっきも聞いた!二度も同じこと言わなくてもいいだろ!」
「あんた、見なさいよ。子供達の見事なキョトン顔」
「し、仕方がないだろ……これしか弾けないんだから」

確かに子供達がなんとも言えない顔をしていた。
ギターの生演奏を聴けたという感動と、これじゃないという感情が混じったような。

「す、すまない。ワンピースの曲はこれしか弾けないんだ」
「えー!!」

残念そうな子供達の声が公園に響く。
気持ちはわかるが、楽器を初めて半年も経っていないような奴に
無茶ぶりしてるのはそっちの方なんだ、勘弁してくれ。

「でもかっこよかった!」
「うん!へんたいさんってすごいんだね!」
「だからどうして私が変態扱いされてるんだ!?なぁ!?」
「し、知らないわよ。あんたなんかしたんじゃないの」
「他には!?何か弾いて!」
「えっ………」

てっきりこれで気が済んだのかと思っていた。
その証拠にストラップを肩から外そうと今まさに手をかけていた。

「な、奈緒……どうしよう」
「なんか適当に弾いてあげればいいじゃん。さっきの様子を見る限り、知らない曲でも楽しめるみたいだし」
「そうか……そうだな」
「そうそう。間違ってもリクエストなんて聞いちゃ駄目よ?さっきの二の舞になるんだから」
「あぁ」

子供達は子供達で何やら話をしていたみたいだが、
私はあえてそれを遮るように、ダウンストロークで強めにギターを鳴らした。
押さえるフレットと弦の移動は極めて単純、リズムも簡単。
子供達は突然始まった演奏に口を閉じ、ギターに聴き入っている。
4小節の1フレーズが終わると、私のことを変態呼ばわりしていた子が嬉しそうに言った。

「この曲聴いたことある!」

それを聞いて驚いたような、羨ましいような声が控えめにあがった。
この曲だって最後までなんて知らない。知っていたところでどうせ弾けないだろう。
でも最も有名なのはこのフレーズ、このイントロだ。
最後まで弾く必要もないだろう。よかった。
もうひと回しフレーズを弾き切ってから演奏を適当に切り上げる。

そしてもっと弾いて欲しいだのなんだの惜しまれながらも、
私はピックを元あったように弦に挟んだ。

「今日はこれでおしまいだ。続きはまた今度な」
「っえー!」
「次っていつ?!いつ?!」
「うっ……それは、わからないが……次までにワンピース?の曲を弾けるようにしておくよ」
「…わかった!ぜってーだかんな!」
「へんたいさん!ありがとう!」

最後の最後でまたそれか、と訂正を求めようとギターケースから視線を戻すと
子供達は既に走り去っていた。

「だから変態じゃないって言ってるだろ!!!!!!」

私の怒鳴り声を背中で聞き流している。
なんか悔しい。

「あんた、子供に舐められっぱなしね」
「うるさい」
「にしても、まさかその曲弾くとはね。ちょっと対象年齢高過ぎたんじゃない?」
「他に思いつかなかったんだ……」
「なんだっけ?曲名」
「Smoke on the Water、だ」
「あぁ、言われて思い出したわ」
「全く……もうこんな無茶ぶりはやめてくれ」

見えなくなった子供達を追いかけるように正面の出入り口を見つめた。
盗み見ると奈緒も同じようなところを見ている。

「どう?暇つぶし」
「悪くなかった」
「奇遇ね、あたしもよ」
「……さ、帰ろうか」

私は後片付けを終わらせて立ち上がった。
教科書が数冊と、簡単な筆記用具しか入っていない鞄だけを持って。

「あんた、ギター」
「さっきの会話、覚えてるか?」
「はぁ?」
「お前、ギター持ってるせいで人に注目されるって言ったらバカにしただろ」
「は、はぁ……?したけど、それは」
「した」
「はいはい……しましたしました」
「私のこと、自意識過剰だって言いたいんだろ」
「あたしが言いたいのはむしろその逆なんだけど……ギターに価値があるんじゃなくて、ギター背負ってるあんたに価値があんのよ、あいつらは」
「意味がわからん」
「はいはい、でしょうね」
「む……」
「で、あたしがあんたのこと自意識カジョーだって言ったらなんだってーのよ」
「お前もこれ背負って学校に来い」
「はいはい………って、はい?」

私と会話するのが面倒だという様子で
爪を見ながら喋っていた奈緒が突如固まった。
そんなに嫌か。そうかそうか。
それなら是非そうしないとな。

私は自分の相棒のギターをベンチに立てかけたまま帰路についた。
後ろから「ちょっと!あんた!これ!!」と切羽詰まった声が聞こえる。

「明日学校で返してくれ。それじゃ」

歩きながら顔も見ずに背後に手を振った。
奈緒の性格を考えるとあそこにギターを放置して帰るなんてことは有り得ないだろう。
そして休みの日にこっそり返すなんて真似もできない。
何故ならばスタジオ練習は明日。持ってこないと練習にならないことは明白だ。
明日、周囲があいつにどんな反応を示したか、聞くのが楽しみだ。

スタスタと夕陽に向かって歩き、公園から離れていく。
不意にどこかから夕飯の匂いがした。

今日の夕飯はなんだろう。というかあいつ、もう帰ってきてるよな?
家で待っているはずの静留のことを考えると、自然と早足になった。
せっかく奈緒にギターを預けたんだ、今日は走って帰ろう。
追って来てギターを返されてもつまらないしな。

そう決めると駆け足で道を行く。
薄い鞄だけを背負った背中はとても軽かった。





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