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舞-HiMEの静なつ奈緒のSSを書こうと思っています。 キャラ崩壊酷いと思うので、大丈夫な方だけどうぞ。

9.

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9.

静なつ奈緒。
奈緒視点。









あたしが煙草を吸い始めたのは高三の夏だった。
誕生日を迎え十八になって、年齢的な制限の範疇から少し外れて
得体の知れない解放感に浸っていたあの頃。
とある夏の日、あたしは藤乃に会った。

「結城はん。お久しぶりどすなぁ」
「げっ……あんた……」

訂正する。
会ったというよりも、出くわした。
その飄々とした様子は相変わらずで、最後に会ったのは
鴇羽が催したカラオケ会以来だから凡そ一ヶ月ぶりの再会だった。

「あんたがコンビニの袋ぶら下げてると違和感がすごいわね」
「そやろか?」
「そうよ。あたしの違和感にオーバーワークさせるのやめてくれる?」
「結城はんたらおかしなこと言わはるんやね」

そう言ってころころと笑う姿は、ただ笑っているだけだというのにとても絵になった。
あたしはこいつの感情の暗い部分も激しい部分も知っている。だからこそ、そのギャップにくらくらきた。
玖我はこの笑顔と一緒に暮らしているのかと思うと、自分のこの想いがいかに不毛かを思い知らされる。

あいつとは二ヶ月近く会っていない。
急用が入ったとかで先日のカラオケに来れなくなってしまったから。
最後に会ったのは偶然を装って待ち伏せた大学の門の前。
待っている間、酷く惨めったらしい気分になったからもう二度とやらないと誓った。

「……あんた、煙草なんて吸うの?」
「うちやのうてなつきどす」

ビニール袋から透けて見えた小さな箱に気付いて指摘すると、予想外の答えが返ってきた。
知り合いに頼まれただとか、心の片隅でそんな答えを期待していた自分の子供っぽさにうんざりした。

時の経過で、人は変わる。
変わらないものもあるかもしれないが、ほとんどのものは移ろう。
趣味も好みも愛する人ですら。

自分の知らないところで玖我が変わっていることを知ると胸が痛んだ。
勝手だ、こんなの。

「へぇ。あのヘタレが煙草ね」
「喫煙にヘタレもなんもあらしまへんやろ?」
「まぁね。ただなんかおかしかっただけ。それじゃ、あたし行くわ」

いつからだろう。
この間会ったときには既に吸い始めていたのだろうか。
まさかとは思うけどそれよりも前から?
疑問を振り払うように藤乃に背を向けた。
帰り道を歩いていたというのに、目的地に背を向けて歩き出したあたしはきっと愚かだ。
だけどこの場を離れたくて仕方がなかった。
変わっていく玖我も、それを恋人として隣で見つめ続ける権利を持つ藤乃も、それを羨んでる自分も。
何もかもが気に食わなくて逃げ出したくて堪らなかった。

自棄になって近くのコンビニに入るなりレジに向かい、
藤乃の持っていた袋から透けて見えてたパッケージを探した。
学校からの帰り道、あたしはまだ制服のままだ。
買える訳が無い。下手したら補導されるかもしれない。
だけどそうしてみたくて、それ以外のことなんてしたくなくて、
明確な理由は無いのに強い意志を持ってあたしはそうした。

しかし想像していたよりも容易くそれは手に入った。
こちらでよろしいですか?と尋ねられ適当に返事をして数百円を支払う。
その一連の動作が終わる直前に、レジ前に置かれていたライターも差し出して
追加の代金を払ってその店をあとにした。

こうも簡単に手に入るとは思っていなかった。
売れないと断られたりするんだと思っていた。
確かにレジの担当はやる気のなさそうな女だったから、それも関係あるのかもしれない。
なんとなく賭けに勝ったような妙な高揚感を胸に、人通りの少ない公園へと入った。

パッケージのフィルムを全部剥がしてどこから煙草を取り出すのかと思案する。
しばらくして、上の銀紙を破るしかないという結論に行き着いた。
慣れない手つきで開封するその様は、きっと滑稽だったろう。
こんなことなら男共の吸い方をもっとよく見ておくんだったと後悔すらした。

それから見よう見まねで火を点けて煙を吐き出す。
いわゆるフカしてる状態なんだろうと今までの知識からなんとなく悟った。

玖我のそのシーンを思い浮かべてみる。
実はあの事実を知ってからここに来るまでに何度も考えていた。
必死に無様な姿を想像しようとしても、煙を燻らせる頭の中の玖我は完璧だった。

会いたい。
会いたくない。
そんな問答を一人で幾度となく繰り返していた。
玖我はどのように煙草に火を点けるのだろう。
そしてその横顔はどれほど綺麗だろう。
疑問が増える度に揺れる心の振り幅は大きくなり、そして速くなる。

このまま死んでしまえればいいのに。
漠然とそんな考えが一瞬だけ舞い降りて、煙と共に夜空に上っていく。
その煙の行く先を眺めながら再びフィルターに口をつけると、加減を間違えむせてしまった。


こうして振り返ると、あたしの人生の中で最もくだらなくて、忘れられない時間のような気がする。
大切かどうかはわからない。ただクソったれな要素が多分に含まれていることは確実だ。

それはとある夏の夜の出来事だった。

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