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舞-HiMEの静なつ奈緒のSSを書こうと思っています。 キャラ崩壊酷いと思うので、大丈夫な方だけどうぞ。

4.

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4.

静なつ奈緒。続き。なつき視点。
喫煙描写有り。






「ただいま。」

最近めっきり重くなってしまったドアノブを回して帰宅。
ドアが重くなったのは故障や経年劣化ではない、きっと私の気持ちのせいだろう。

返事もないし姿は見えないが、靴はある。少し遠くから細かい水音が聞こえた。
シャワーの音だ。風呂場にいるのなら返事がないのも納得だ。

ゆっくりとドアを閉め、そっと鍵とドアバーをかけた。
なんとなく、帰ってきた気配を察せられるのを避けてしまった。

いつも以上に気が重いのは件のプレゼントのせいだ。
私が考え過ぎて空回りしてどうする、とは思うもののやはり裏がある気がして落ち着かない。
ただ、私が今日奈緒に会って実物を見たというのも予定として辻褄が合わない。
要するに私に成す術というのは一つもないのだ。
奈緒が言う通り、堂々としていることくらいしか私にも思いつかなかった。

「おかえり、なつき。」
「あぁ、ただいま。」
「いつ帰って来たん?」
「今さっきだ。」
「そうどすか。お腹空いてはるやろ?いま用意しますさかい。」

いつも通りだった。
会話も、表情も、準備中の夕飯の匂いまでもが、普段と変わらない。
そして食卓に並んだ料理もいつも通りに美味かった。

−あぁ、完全に杞憂だった
と深刻に考え過ぎた自分を頭の片隅で恥じた。
だからヘタレだのなんだの言われるんだ。
私はもう少し自分の感覚や勘を無視した方がいい。
おかわりをよそってもらいながらそんなことを考えていた。

「……。」
「なしたん?」
「いや、なんでもない。」

不意に自分が帰ってきたときのまま置きっぱなしになっていた鞄が視界に入った。
あまり出しっぱなしにすると静留に怒られるのだ。怒られるというか、叱られる。
きっとその方が効果的だと踏んでのことだろう。大当たりだ。
あれをされると酷く情けない気分になるから、極力避けたい。
立ち上がろうと思ったら、それよりも早く、静留が私の視線を追った。

「あ。またあないなとこに」
「ま、待て!いま片付けようと……。」
「言い訳は聞きまへん。」

言いながら静留は立ち上がる。
行動に移すのが遅かった私はテーブルと椅子の背もたれに手をかけ、中途半端に立ち上がる体勢を取ったまま動けなくなってしまった。

「なつきは座っときよし。うちがやったるさかい。」
「あ、あぁ……すまない……。」

そして彼女が鞄を持ち上げると何かが落下した。
フローリングの床に軽い音を立てて落ちたそれを覗く。

「!?」

それは先程までいたホテルのマッチだった。
幸い、店の名前や住所は入っていない。

−ん?店名の書かれていない普通のマッチが置いてあるぞ
−へぇ?いつものやつじゃないんだ?
−あぁ、そうらしいな
−たまたま切らしたとかかもね

数時間前の奈緒との会話が思い出される。
もちろん、だからと言ってホテルにあるものを持ってくるなんてことはしない。断じてしない。
自ら決定的な証拠を残すような真似、出来るはずがない。
しかし現にそれは床に落ち、静留の手によって拾い上げられてた。
そして静留は無駄のない動作でテーブルの上にマッチを置き、この場を離れた。

「それ、なしたん?」

私の鞄をしまいに行ってるであろう静留の声が廊下の奥から聞こえる。
姿は見えない。その隙に私はなんとなく表情を作った。

「あぁ、もらった。」
「ふぅん……そろそろ一服しはるやろ?」
「あぁ、そうだな」
「はい、どうぞ。」
「悪いな。」

サイズのわりに質量がありそうな音を立てて、テーブルの真ん中に鎮座したそれを
少しばかり自分の方に引き寄せる。
私が非喫煙者だったら完全にアウトだった。
普段、喫煙する習慣に対して感謝することはあまりないが、今ばかりは有り難かった。

「ライターじゃあかんの?」
「マッチでつけると味が違うんだよ。」
「そないに言わはったら、なんや匂いまで違てくる気しますなぁ。」
「はは。それはどうだろうな。」

他愛のない会話、として成立しているだろうか。
何が味が違う、だ。普段はライターで点けようがZippoで点けようがお構いなしのくせに。
ぎこちない手つきでつけたマッチの火が燻ってすぐに消えた。
煙草とは違う独特の匂いはどこまでも場違いだった。
普段はホテルでしか嗅がないはずの匂いが静留の前で香っているんだから。
いや、香るという程いい匂いでもないか。

なんてくだらない事を考えていると、マッチで火を点けた煙草の味が気に入ったのかと訊かれた。
嘘のせいで嘘を重ねなければいけないのはもううんざりだ。私はやんわりと否定した。

「いいや。普段と違う風味だったから珍しくて吸ってるだけだ。きっとすぐに飽きる。」
「随分冷静なんどすな。」
「わざわざ火を点ける度にゴミが出るのも面倒だしな……どうも続きそうにない。」
「確かになぁ。なつきはズボラやさかい。その読みはきっと当たりはるやろね。」

クスクスと笑いながらテービルに肘をつく静留。
何気ない動作だが、家でしか見せないこういう飾り気のない彼女の仕草が私は好きだ。

「……。」

ふと、奈緒と関係を持ったあの雨の日のことが頭をよぎった。
振り払うように煙草をもみ消すと、すぐに新しい煙草に火を点けた。

「最近、本数多いんとちゃいます?」
「かもな。」
「口寂しくなったらうちがおるんにな。」
「バカ。」

煙草はお前の代わりになんかならないだろ、と小さく言って辺りをさりげなく見渡した。
そう、そもそもこのマッチを持って帰ってくるつもりなどなかったものだ。
いやむしろ持ち帰ってはいけないものの類いだと認識していた。なのに、何故。
適当に言葉を繋いでその場を凌いではみたものの、鞄に入っていた理由は分からず仕舞いだ。

「でも、随分様になってきはったね。」
「え?」
「火ぃの点け方、吸い方、消し方。全部の動作が板についてきたって言うとるんよ」
「それは……褒めてるのか?」
「健康のこと考えると真逆の意味になるんやけど……。うちはなつきの煙草吸う仕草も好きやさかい、一応褒めとるつもりどす。」
「ばっ…!そ、そうか……。」

頭の中を会話に六割、思考に四割を割きながらじっくりと数時間前の回想を続ける。
行為が終わってから、奈緒が煙草を吸った。面白がってホテルにいるときはマッチで喫煙する奈緒のことだ。あのときだって例に違わずそうしたであろう。奈緒が入れた?
いや、それはない。よく考えたらフロントから電話がきた時に見たような気がする。

「………………!!!」

そうだ。
確かあのとき、普段だったら鳴らない筈の電話が鳴って、慌てて支度をして。
適当に鞄の中に物を詰め込んだ気がする。

「………。」

マッチはまだいい。
思い出してしまった。
あの状況で持ち帰る可能性があった物がもう一つあったことを。


私は……あの時……持っていたゴムを、どこにやった………?

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