静なつ奈緒。なつき視点。
注意書き(
こちら)読んだ上で、それでも大丈夫という方のみどうぞ。
−そんな欲しがるように見てんじゃないわよ
目の前で、まるで見せびらかすようにチラついているスマホカバーを睨みつけているとそう言われた。
欲しがるような目で見ているつもりはない。だがやめるつもりもない。私にそう声をかけた本人だってただの戯れのつもりだろう。
本気で恨めしい目をするのをやめろと言っているわけがない。
むしろこいつは私のこんな視線が欲しくてたまらないはずだ。
もっともっとと瞳の奥で煽られている、これはおそらく私の勘違いではない。
「そんなに静留から貰ったものが嬉しいのか?奈緒」
「はっ、誰が」
「嬉しいなら嬉しいときちんと意志表示したらどうだ?変なものをあげて気分を損ねたんじゃないか、って心配してたぞ」
奈緒の反応が見たくて告げた事実はばっかみたいの一言で一蹴されてしまった。
まぁ、予想はついていた訳だが。
先日、私の彼女こと藤乃静留は、目の前にいる女・結城奈緒に誕生日プレゼントを渡した。
それが既製品ではないようで私は少し驚いた。正直、静留がそこまで奈緒のために時間や労力を浪費するとは思えなかったからだ。別に嫉妬だとかそういった類いのものではない。ただただ不自然だと思った。
ラインストーンが綺麗にあしらわれたそれは一目みて一点物だとわかる。
そちらにはてんで疎い私がそう感じたくらいだ。奈緒だって同じ事を思った。そして問うたのだ、静留に。
−もちろん、手作りどす
いつもと同じ体感温度36度ちょっとの笑顔で私の彼女はそう宣ったらしい。
どう考えてもおかしい。今まで静留が私を除く誰かにそこまでしたことなんてなかった。
それに送ったもの自体も普段の静留のセンスとはかけ離れたものである。
人に贈るどころか、むしろ嫌いそうな派手な装飾のカバーは奈緒に合わせた(それにしたって派手だ)のだろうか。
わからない。ただ、胸騒ぎが止まらない。
不可解な気合の入りように困惑しつつも事態を飲み込み、今に至る。
「これ、藤乃が私達の関係に気付いててやってたら、相当笑えるよね」
「笑えない。どこまで悪趣味なんだ、お前は。というかどうしてそうなる」
「奈緒さんとなつきは繋がってはるんやから、手ぇは抜けまへんなぁ、とか?」
「馬鹿か。冗談でも心臓に悪い」
そう言ってキラキラと室内灯を反射させているそれをもう一度分析するように見やった。
違和感を感じているのは私だけなのか。
くだらない嫉妬心がそうさせているのか、奈緒との関係を感付かれているかもしれないという焦燥感がそうさせているのか、それとも私の勘が正しく働いているのか、何が正解なのか自分では皆目検討がつかなかった。
「全てが静留らしくない。………お前、まさか」
「え?」
「それ、静留から貰ったって噓じゃ…」
「ばーーーーーっかじゃないの?そんなソッコーでバレるような噓つくわけないじゃない」
「う……そ、それもそうか」
「帰る」
そう言って奈緒は上着に手をかけた。
会話をしながらてきぱきと着衣を整えていたから嫌な予感はしていた。
だからってここまで的中しなくてもいいだろう。
「おい、ちょっと待て」
「なに?離してくれる?」
縋るように奈緒の服の裾を掴むと自分でも驚くくらいどうしようもない言葉が口をついて出た。
「私は、どういう顔であの部屋に戻ればいい」
「……は?」
軽蔑するような声色がラブホテルの一室に木霊した。
わかっている、こんなこと奈緒に聞くべきではないということくらい。
私が奈緒の立場だったとしても、馬鹿げた問いに同じようにがっかりしたであろう。
「はぁ…あんたさぁ、ビビり過ぎ。そりゃ確かにこれを藤乃が作ってるところなんて想像つかないよ?でもさ、本人がそう言うならそうなんでしょ。どう見ても既成品には見えないし。」
「……。」
「どんな顔して帰ればいいって?いつも通りバカ面下げて帰ればいいのよ。そんなこともわかんないワケ?」
奈緒は私の手を振りほどいてずんずんと歩いて行く。
そしてドアの前でダルそうに振り返ると、「ここ、あと15分で時間だからね」と言い残して本当に帰ってしまった。