バンドパロ、3回目です。
単発でやると言っていた過去の私の発言は駆逐されました。
(獲物を特に屠る訳でもない)イェーガー♪
「は?あんたそれマジなの?」
「マジもマジ、大マジどすえ」
「しかしまだ私達は」
「大丈夫やろ。卒業前に何かしらの形で発表したい思うんやけど……あかん?」
藤乃はそう言ってとんでもない意見を通そうとする。
あんたねぇ、そんな風に言われたら断りにくいでしょうが。
藤乃の提案はシンプルなものだった。
二ヶ月後のライブの出たい。
それでもあたし達はまだ楽器を始めて四ヶ月そこらのぺーぺーな訳で。
人様に聴かせる演奏が出来るとは到底思えなかった。
いや、こんな言い方したら失礼かもしれない。
玖我のギターも藤乃のベースも歴を耳にした途端、
素っ頓狂な声を上げてしまっても仕方がないくらいの見事なものだ。
問題はあたしだけだ。
あんたらみたいになんでもかんでもそつなくこなせるような超人じゃないのよ、あたしは。
基本的なエイトビートの辿々しさだって、聴く人が聴いたら始めて間もないと悟られてしまうかもしれない。
その程度の腕前でライブだなんて、大それた目標としか思えなかった。
そもそもお遊びで始めたってのに。
ライブだなんて聞いていない。
「あんた、それいつから思ってたの」
「いつからて……最近、なんとなくどすえ。そやから二人にこうして相談したんやけど」
「あんたねぇ……」
相談?
馬鹿言うんじゃないわよ。
高校生活も終わりが見え始めてるような奴にあんな脅迫じみた言い方をされたら、
それはもう相談ではなく強制だ。
あたしはため息をつきながら額に手を当てた。
「静留、気持ちはわかるんだが……その……」
玖我も渋る気持ちは同じらしい。
どの部分に対してそう思っているのか、言われなくても見当はつく。
「歌、でしょ?あんたの場合」
視線を向けながら問うと、玖我は少しだけ間をあけてそうだ、とだけ肯定の言葉をこぼした。
玖我は自分のポジションに未だに納得がいっていないようだ。
普段の練習で愚痴を言うことはなくなったが、玖我は自分はボーカルには相応しくないんじゃないかとずっと思い悩んでいた。
そんなの、あたしだけではなく藤乃も知っているはずだ。
「なつき。まだそないなこと言わはるん?」
「でも……」
うじうじとした玖我にイラついたのか、あたしは二人の会話に割って入った。
「あんたねぇ。いい加減覚悟決めなさいよ」
二人があたしを見てきょとんとしている。
だけど、こればかりは言わなければいけないような気がしてあたしは続けた。
「あんたの歌、あんたが思う程悪くないよ。それに声だって地が低い上に安定してるから……」
そこまで言ってあたしは黙った。
真正面から他人を褒めるのは性に合わない。
しかし今の台詞を藤乃は勝手に解釈した。
「奈緒はんもなつきに覚悟決めろ言うてはる。つまり、ライブには賛成。そういうことどすな」
「……はぁ!?」
「奈緒、そうなのか!?」
あたしは閉口した。
確かに今の言葉はそういうようにも受け取れる。
ただ、あたしは玖我の杞憂を鬱陶しく思っただけで、そんな……。
「なら、あとはなつきの意思だけどすな」
「私は……」
「ちょ、ちょっと待って」
「わかった。どこまで出来るかわからないけど、出来る限りのことをやろう」
「待ってってば!」
あたしがいるところで二人の世界に入るなって、バンドを始めるときに再三言ったでしょうが。
それにあたしはライブに出るなんて一言も……。
「あー……自信ないんやろ?奈・緒・は・ん」
「……は?」
二人の楽器を買いに付き添った日、呼び名を改めてもいいかと藤乃に訊かれた。
そして今、その呼び名で挑発される。
確かにその通りだ。自信なんてある訳がない。
だけどここで乗らなきゃあたしじゃない。
自分で自分の首を絞めることになるのはわかっている。
しかし素直に肯定なんてしようものなら、結城奈緒という人間は今この場で死んでしまうのだ。
「上等じゃない。やってやろうじゃないの」
腕を組んでそう言い放つ。
玖我が心配そうにこちらを見ているが知ったことではない。
そう。そもそも、藤乃がライブに出たいと提案してきた時からこうなることはわかっていた。
それならばせめて、恥を晒さぬよう努めるのは自然なこと。
そしてあたしは用が無いなら帰ると言い残して家に帰ってきた。
時間差で後悔が襲ってきたのは夕食を終え、お風呂に入っている頃だった。
売り言葉に買い言葉、見事に安請け合いをしてしまった。
というかまんまと藤乃に乗せられた。
もしかしたらもう少し真剣に話し合えば二ヶ月後のライブは回避できたかもしれない。
様々な後悔の念が押し寄せてくる。
あたしは頭を抱えたまましばらく動くことができなかった。